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KEIアドバンス
KEI Higher Education Review

「食は総合科学」の時代に(後編)——「文化、科学、DX、そしてデザイン&コミュニケーション」【独自記事】


オーガニック農業

食に関する学びが総合科学化する背景には、第一次産業(農林水産業)中心の産業観から第二次産業、第三次産業も含めた六次産業化への移行を進める政策も影響していると思われるが、直近ではさらにDXとの掛け合わせによるスマート農業への取組みが増えている。いくつかの例を挙げてみよう。


【本記事は「前編」からの続きです】


 


【4】東京農業大学 地域環境科学部 生産環境工学科 


同学科は、その前身となる農業工学科から通算すると80年を超える歴史を有する学科であるが、2024年度からは、従来の4分野8研究室から新たな2分野4研究室体制に生まれ変わる。


農業生産と環境保全の一体化という考えのもと、環境に配慮した持続可能な農業生産技術開発に取り組み、日本と世界の食料・環境問題の解決に向け貢献できる人材を育てること、Society5.0における農業としてAI×Tech×SDGs×DXを中心としたスマート農業やフード&アグリテックの期待に応え、それらに対応できる生産環境・生産システムを構築するため、新しいデジタル技術を活用すること、などが改めて謳われている。




 


【5】共愛学園前橋国際大学 デジタル・グリーン学部(仮称) ※2026年度新設構想中


2022年度からスタートした大学・高専機能強化支援事業 (学部再編等による特定成長分野への転換等に係る支援)【支援1】に採択された構想で、全体としては「地域課題を発見・設定し、解決策をデジタルやグリーンの知見も活用して協働構築し、未来を構想して実装する人材」を育成するという、大きなプランの一部に食、特にフードテックが含まれる、というものである。


このプランの基盤となるのは国が政策的に進めている「デジタル田園都市国家構想」で、同大学が位置する前橋市のデジタルグリーンシティ構想はその拠点の一つに採択されている。





食を柱としたグリーン人材育成は、食品産業の規模が大きい群馬県にあって県内出身者が9割を占め就職も8割が県内という同大学の卒業生が地域に貢献するのに適している。


一方、デジタル人材育成に向けの取り組みもある。2026年度の新学部の設置に先立ち、現在、慶應義塾大学に置かれているサイバー文明研究センターを、2025年度に共愛学園前橋国際大学にも設置し、國領二郎・現慶應義塾大学教授がセンター長に就任する。


そして、サイバー文明研究センターの名誉センター長として、「インターネットの祖父」と称されるDavid Farber博士を迎え、DX人材の育成の準備を進めようとしている。また、サイバー文明研究センターは、大学だけではなく、前橋市とも連携し、地元企業のデジタル化の推進や行政のデジタル化などにも協力する。


 


【6】京都女子大学 食農科学部(仮称) ※2027年度新設構想中


こちらも大学・高専機能強化支援事業【支援1】に採択された構想である。申請資料の「特徴・コンセプト」には以下のようにある。


「食と農について生産から加工・流通・消費に至る様々な部門を対象とし、持続可能な環境調和型食料システムの構築とグリーントランスフォーメーションの推進に資する人材を養成する」


教育内容としては、「生物資源学」「環境生物学」「農業情報学」「農業生産技術」「生物化学」「遺伝学」「微生物学」「食品科学」「食料・環境経済学」「政策学」等が挙げられている。


行政機関、組織・企業等の連携については、「食の生産・流通」「栄養・生理機能成分の分析」「スマート農業」「商品開発」「素材研究」「人材育成」等に関して、PBL型授業やインターンシップ用の実施も計画しているとされている。


実際の開設まではまだ時間があるため、具体的な内容が見えない部分も多いが、データサイエンス学部も擁する大学なので、さらなる新たな取り組みにも期待がかかるところである。




 

【まとめ】


近年の大学のさまざまな取り組みについてみてきた。では、これからの方向性を考えてみよう。


総合科学としての食にさらに今後加わっていきそうな分野・切り口として考えられるのがデザイン&コミュニケ―ション=伝える・巻き込む力ではないだろうか。


農林水産省は、将来にわたり日本の食を確かなものにするために、消費者、生産者、食品関連事業者、日本の「食」を支えるあらゆる人々と行政が一体となって、考え、議論し、行動するための取り組みとして2021年から「食から日本を考える。ニッポンフードシフト」をスタートさせている。


多彩な取り組みが継続的に全国各地やネット上で行われているが、ここで注目したいのが2022年10月に開催された「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.東京2022」での京都芸術大学による展示・体験ブース「シ展。2022-2023」である。


「これからの食とデザインを、様々なシテンで考えてみる」ことをテーマとし、デザインを学ぶZ世代による「食料安全保障や価格転嫁」に関する探求成果のグループ展として、生産者や食品関連事業者へフィールドリサーチを行い、これからの食をデザイン視点で考え直すプロジェクトで、同大学芸術学部の情報デザイン学科の学生たちが中心となって手掛けたもの。


指導にあたった教員の1人、村川晃一郎氏は、以下のように語っている。


「課題がどこにあるのか、どのようにしたら人に伝わり、また見た人の考え方が変わるのか、そういったことを、デザインを行う際に用いる思考や手法でひも解いていくと、新しいアプローチができるのではないかと思いました。デザインを学ぶ学生たちは、思考したものをアウトプットする能力を持っているので、食の問題に対してもきっと課題解決につなげられると思います」

この「シ展。2022-2023」は、さらにこの後、2023年1月開催の「食から日本を考える。NIPPON FOOD SHIFT FES.兵庫」でも発表・展示が行われた。



「シ展」では10チームによる様々なシテン(視点)のプロジェクトの展示・発表が行われ、いずれも芸術系の大学ならではのカラフルでアトラクティブなものが揃った。


なかでもチームCの「選択の支点」と題するプロジェクト、「食品添加物」「遺伝子組換え」「慣行農業と有機農業」「国産と輸入」「食料自給率」の5つのテーマについて調べ、是非や可否を述べるのではなく、すべての物事には裏表があることを踏まえ、食の現状を回転パネルにデザインして、「あなたはどう思いますか」と意識喚起をする展示などには、個人的に視覚デザインの強みを感じさせられた。




テーマ「選択の支点 知る、選ぶ、食べる。」 https://www.maff.go.jp/kinki/photo/kekka/230118.html より


これは一つの事例であるが、専門家だけでなく一般人にも広く関わる食のような分野・フィールドを総合的に扱うためには、専門家として新しい価値を産み出し、それを評価・可視化することはもちろん、さらにわかりやすく表現し伝える力がなければ、持続可能なサイクルは生まれない。


今後は「文系⇔理系」「情報・DX」+「デザイン(思考)&コミュニケーション」まで視野に入れたSTEMな学びが増えていくのではないだろうか。




 

<著者プロフィール>


満渕 匡彦(まぶち まさひこ):KEIアドバンス コンサルタント。学校法人河合塾、またKEIアドバンスを通じて、長年に亘り入試動向分析や学部学科新設検討などを担当。趣味はチェロ演奏。

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