少子化が予想以上のスピードで進行するなか、入学生の確保という問題は、大学にとっての一番の悩みのタネである。「大学入試改革」「高大接続改革」などの名前で呼ばれるさまざまな「改革」を行なったり、時代に合った学部・学科の改組を行なったりしながら、各大学は、新時代と学生のニーズに応えようとしている。
これらの取り組みの一つに、「レイトスペシャライゼーション」がある。レイトスペシャライゼーションは、伝統的には東京大学の教養学部(1,2年次)などで導入されてきた制度として有名だが、近年、この制度を導入する日本の大学は増加傾向にある。
レイトスペシャライゼーションとは、日本語に直訳した「遅い専門化」の言葉どおり、大学入試の時点では法学部、医学部、経済学部など専門的な学部・学科での募集をせず、入学後1,2年の教養教育(リベラルアーツ教育)を経てから、どの専門分野へ進むかを決めさせる制度だ。
現在、国内のほとんどの大学では、入試出願時点で学部・学科や専攻を決める必要がある。一方、レイトスペシャライゼーション制度のもとでは、学生は、入学後しばらくは、興味関心の赴くまま自由に幅広い学問分野を学ぶことができる。
伝統的なリベラルアーツ教育=レイトスペシャライゼーションで有名な東京大学や国際基督教大学(ICU)のほかにも、すでに北海道大学などが制度の導入を果たしていた。大学全体ではないが学部単位での制度導入を始めた早稲田大学、京都大学、名古屋大学などの事例もある。
今年の4月からは、富山大学の経済学部と理学部で、募集人員を大括り化し、レイトスペシャライゼーションに対応した教育体制を構築する。
この動きは、国立大学や大規模な私立大学だけに見られるものではない。桜美林大学(東京都町田市)や帝塚山学院大学(大阪府堺市)なども、教養教育=リベラルアーツ教育の名のもとに制度を導入している。
神奈川県横浜市に複数のキャンパスを持つフェリス女学院大学も、来年2025年度からの制度導入を目指している。同大は、現行の3学部5学科から、グローバル教養学部のみの1学部9専攻への改組を行なうことによって、「これまでの古い『知識』では解けない、新しい世界規模での問いに、当事者として真剣に取り組んでいくための力」(同大新学部のHPより)を育むとしている。フェリス女学院大学グローバル教養学部 (ferris.ac.jp)
学生にとってのレイトスペシャライゼーションの利点の一つは、早期に幅広い学問分野に触れることで文理融合的な学びが可能となり、考え方の柔軟性を高められることにある。また、将来の進路・キャリア選択に迷っている学生や、まだ自分の適性がわからない学生にとっては、入学後のミスマッチを防ぐことができる有益な選択肢となる。
レイトスペシャライゼーションは、専攻分野を決める負担を後回しすることができ、将来に悩んでいたり決めきれなかったりする受験生の味方となるだけでなく、グローバルな規模で分野横断的な課題が山積する社会で活躍できる人材育成にも有益だろう。
一方、厳しい経済状況が続く世界と日本の中では、就職に直結する専門性を売りにする大学・学部への人気は衰えない。将来「食っていける人材」になる、という学生や親世代の切実なニーズに対しても、遅い専門化と教養教育は、説得力のある対抗軸になることができるか。数年後、数十年後の卒業生の活躍を期待したい。
Author:宇佐見祥尚(KEIアドバンス)