2025年共通テストから導入される新科目「情報Ⅰ」だが、受験生だけでなく、指導側、そして大学側からも不安の声が聞こえてくる。
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2025年度大学入試のシーズン(今年度=2024年度の秋から冬)に向けて、学校関係者の準備が本格的に始まった。2025年度は、2022年の高校入学生から導入された新課程に対応した初めての入試となる。
「大学入学共通テスト」(旧センター試験)では、新教科「情報」が初めて出題される。ただ、受験生を送り出す高校関係者、受け入れる大学関係者のどちら側にとっても、不安要素が多い状況が続いている。
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プログラミング能力検定の開発・実施を行う「プログラミング総合研究所」(東京都豊島区)が今年4月に公表したアンケート調査結果(2024年2~3月にかけて全国の教員・学校関係者462名を対象に実施)によると、2025年度の大学入学共通テストから導入される「情報Ⅰ」科目に対して、8割超の教員等が実施に不安を感じていると回答している。また、約35%の教員は、学校現場(勤務校)において「情報Ⅰ」を学ぶ環境が十分に整っていないと答えた。
こういった指導現場における不安の声は、2022年の新課程導入時点から聞かれている。「特定非営利活動法人みんなのコード」(神奈川県横浜市)が2022年に実施した高校教員調査によれば、550名の回答者のうち82.7%の教員が、全体として「情報Iの授業時数が少ない」と回答しており、また2025年度から大学入学共通テストで「情報」が導入されることに対して、81.7%の教員が不安を感じるとしていた。
また、同じ2022年に東北大学が実施した調査(同大学に志願者・合格者を輩出する高等学校等330校を対象とする質問紙調査、回答数259校)によると、令和7(2025)年度大学入学共通テストから、全ての国立大学に「情報」を課すという国立大学協会(以下、国大協)の方針に対する賛否について聞いたところ、3分の2近くの64.5%の高校が「反対」、「賛成」の回答は10%に過ぎなかった。
「情報」を課すことの問題点に関する同調査の回答(自由記述)には、「教員の配置に学校や地域で格差があり、指導が公平でない」「生徒の負担が増える」「他の入試教科の学習時間がとられる」「大学教育で必要なのか疑問」等の意見がみられた。
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一般入試で共通テストの受験が必須となる国公立大学の対応もまちまちである。
河合塾の調査によると、2025年度大学入学共通テストの「情報Ⅰ」について、国公立大の63%が「情報Ⅰ」の配点比(1,000点満点中「情報Ⅰ」の配点は100点=素点)を、本来の10%(100点/1,000点)よりも低く設定するという。
「情報Ⅰ」の配点を素点(=100点)のまま利用する予定の大学は29%、配点比を10%よりも高く設定する大学は8%に留まる。また、北海道大のように、「情報Ⅰ」の受験を必須としつつも得点化はせず、成績同点者の順位決定の際にのみ活用するなど、「様子見」ともいえる動きも見られる。
様子見には別の事情もある。2025年度については、「社会と情報」および「情報の科学」が選択必履修であった旧課程生への対応として、選択問題を含む「旧情報」も出題される。「情報Ⅰ」よりも「旧情報」を受験する方を選ぶ受験生もおり、「どちらを受験するのが有利か」見定めようとする動機が、大学側、受験生側の両方に存在するのだ。
4月に実施された河合塾の「第1回全統共通テスト模試」では、新・旧両課程の教科「情報」が出題されている。成績結果からそれぞれの平均点を見ると、「情報Ⅰ」が56.5点であるのに対し、「旧情報」は67.2点と10点以上もの差が開いている。たしかに、それぞれの受験者数を見ると、「情報Ⅰ」の受験者は約11万8000人、「旧情報」の受験者は約1万人と少なくなっている。したがって、「情報Ⅰ」のほうが「旧情報」よりも、受験者の学力差が大きいことも影響しているのかもしれない。
しかし、「旧情報」には「社会と情報」「情報の科学」の中から、受験生が得意とする分野の選択パターンがある。大問別の平均点を見ると、新・旧ともに「アルゴリズムとプログラミング」の平均点が大きく落ち込んでいるが、「情報Ⅰ」では全分野必答であるのに対し、「旧情報」では、苦手分野を避ける選択が可能である。実際に、受験生の苦手とする「アルゴリズムとプログラミング」分野の選択者は、「旧情報」受験者1万人のうち7%程度にとどまった。その結果、得意分野を選択できる「旧情報」の平均点は10ポイント以上高くなり、「情報Ⅰ」を避けた方が(少なくとも今回の模試では)得策であったことになる。
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高校等の指導現場での不安は、指導体制の問題にも影を落としている。
かねてより、教科「情報」については、専門科として情報科の免許を有さない臨時免許状・免許外教科担任による指導体制に課題があることが指摘されていたが、状況は改善どころか、悪化の一途をたどっているように見える。
文部科学省の調査によると、臨時免許状または免許外教科担任者の数は、令和4(2022)年度には情報科を担当する教員4,756人中の796人に、また令和5(2023)年度には同4,411人中の192人にまで減少している。
文部科学省は、継続的に研修機会を提供するなどして、個々の教員の指導力向上に資する取り組みを充実させるよう、各都道府県の教育委員会等に促している。しかし、高校現場が指導に対する充実感を得るには至っていない。
共通テストの科目となった「情報Ⅰ」は、Society 5.0の到来に対応するために導入された。「情報Ⅰ」の導入で、情報技術を適切かつ効果的に活用する力を身に着けることが期待されている。高大接続改革の架橋としてのテストはどのようにあるべきなのか。手探りの状態が続いている。
Author 福島聡華(KEIアドバンス)
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