全国の大学でも例をみない国際公募というプロセスを経て、外国籍の委員4名を含むダイバーシティにあふれた選考委員から推挙され学長に選出された出口治明 APU学長。病をのり越え、2期目の任期で新学科の設立へ。そのバイタリティーの秘密に迫ります。
立命館アジア太平洋大学
■ 現在、COVID-19の感染者の増減はあるものの、社会全体としてのコロナ禍への対応は終息の兆しを見せています。しかし、大学教育および大学経営を取り巻く環境は、相変わらず厳しい状況が続いていると思います。とくに、留学生をおおく受け入れている貴学の状況はいかがでしょうか?
□ 出口学長:
日本の高校生は、2022年秋以降、海外への留学等が徐々に再開してきました。ただ、海外の高校生は2021年秋以降に動き出しています。もしかしたら大学に入学しても1年はオンライン授業となるかもしれない。それでもコロナ終息後を見据えて動き出していたのです。
APUでは現在、留学生、APUでは国際学生といいますが、国際学生の入試は過去最高水準の志願状況で推移しています。また、国際学生の出身国・地域も2022年秋には102か国・地域、2023年春には106か国・地域となりました。
昨年の秋に入学をしたカナダ出身の学生と入学式で話をしました。僕は、「カナダも多文化な環境の国なのになぜAPUにきたのですか」と聞きました。その学生は、「カナダも確かに多文化な環境です。ただ、生まれてからずっとカナダにいるという人もかなり多いです。APUはほとんどの人が『高校を卒業して初めて親元を離れて日本に来ました』という人ですよね。日本人も親元を離れて一人暮らしをし始めた人が多いと寮でも聞きました。こんな人たちが集まっている環境で学べるところはなかなかない。これが本当の多文化環境だと思います。」というのです。面白い学生が来ていると思いませんか。
僕は、常日頃から人間が賢くなる方法は「人・本・旅」に尽きると話をしています。APUには多くの学生が「人・旅」をしに来ています。これまで出会わなかった新しい人と出会うことができます。旅についても新しいチャレンジができます。
この前、話をしてくれた学生は、APUに入学するまで海外旅行に行ったことがなかったという学生だったのですが、初めての海外旅行の行き先をケニアにし、実際に行ってきたと話をしていました。その学生は一昨年、オンラインと対面授業を合わせたハイブリッド型の授業を受けていた時期に、オンラインでケニアから授業に参加していたケニア人の学生と仲良くなり、その学生が日本に入国できるようになったので、ケニアを出発し日本に来るという前に、ケニアに会いにいったというのです。新しい出会いから新しい旅が生まれています。
日本で生活していると、なかなか初めての海外旅行でケニアに行こうと思わないのではないかと思います。そして、新しい人や旅との出会いを踏まえて、新しい知識を欲して本も読むでしょう。APUはまさに「人・本・旅」を実践できる世界にも類を見ない環境がそろっています。
日本では、コロナ禍となりこれまでに増して親元から離れず地元の大学に通う生徒が増えたと聞いています。国際系分野に進学する生徒も減ったと報告を受けました。全世界に猛威を振るったコロナ禍という困難を乗り越え、世界は改めて「グローバル化」の価値を問わなければならない。「グローバル化」とは国や地域を越えて、地球規模で経済活動やコミュニケーションが行われることです。
それは何も今に始まったことではありません。世界では大昔からグローバル化していました。日本も同じで、九州は古代から日本の玄関でした。日本で最初に文明が発展したのは北九州の地です。人間以外の動物は、自分の行動範囲内にある資源の制約の中でしか生きることができません。
しかし、人間は交易を行うことで、その生態系の資源の制約を超えて豊かな文明を築いてきました。グローバル化は昨日今日に始まったことではなく、文明と共にスタートしたのです。日本は自由な交易の上にしか豊かな社会を築くことはできません。これが、グローバル化が大切だといわれている真の理由です。
コロナが蔓延する世の中となってもこの事実は変わりません。こういう時代だからこそ、特に伸びしろの大きな若者たちには、いっそう多くの「人・本・旅」に飛び込んでほしいと思っています。
■ 上の質問にも関連しますが、日本は今、人口減少がはっきりと目に見えるようになってきており、一方で、長寿化と経済の担い手不足に対応すべく「人生100年時代」ということも言われております。そのような時代における大学の役割、方向性についてお聞かせいただけますでしょうか?
□ 出口学長:
今の日本社会の問題点は、「何をやってもよくならない」という悲観論が蔓延していることではないでしょうか。バブル崩壊後、製造業から新しいサービスに転換できなかったことが全てだと考えています。
この状況を打破するには「女性の活躍」が重要で、徹底したダイバーシティとインクルージョンの推進が大切です。「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数2023」によると日本女性の社会的地位は146か国中125位で、G7で最下位ですが、まずはこのジェンダーギャップの解消が必要です。
サービス産業のユーザーは60%が女性であり、ユーザー視点、カスタマーサクセスを第一に置くのであれば、女性の立場に立ったサービスの開発が必要不可欠です。欧州でクオーター制が進んでいるのは、女性に活躍してもらわないと成熟社会を引っ張るサービス産業を支えることができないからです。
女性の登用が遅れている日本がこの課題にどのように対応すべきかについては、火を見るよりも明らかです。
アイデアやイノベーションは多様性から生まれます。イノベーションは、「既存知」と「別の既存知」の組み合わせによって生まれるといわれています。そして、既存知間の距離が遠いほどアイデアは面白くなる。例えばアメリカのシリコンバレーには、いろいろな国から様々なバックグラウンドを持つプロフェッショナルが集まるからこそイノベーティブな地となったわけです。
「違い」に触れた瞬間に、問いが生まれ、イノベーションの種となります。つまり、ユニークでイノベーティブな人材を育む環境には多様性が切っても切れない要素と言えるでしょう。
大学のあるべき姿として僕が共感しているのが、カイロにある世界最古の大学の一つ、アズハル大学の3信条「入学随時、受講随時、卒業随時」です。何年か働いたら大学に戻って学び直し、また社会に戻る。社会と大学を行ったり来たりすることができる社会循環を作っていくことが大切だと考えています。
定期的に大学で時代に合った最新の学問を学び、様々な発想を得た人が社会に戻って、これからの日本の競争力の源泉になる。年齢も、性別も、国籍も、何も問わず、意欲のある者であれば誰しもが学べる、大学はそんな場所であり続ける。だから僕たち大学が常に率先して社会にとってのダイバーシティの母体になりたいと考えています。
■ 出口先生はご著書で、人生は「運と適応力」と言っておられます。詳しく教えてください。上記にも関連して、日本の大学に「留学生(外国人)」を受け入れる意味や、大人向けの大学教育(「社会人」へのリカレント教育)の必要性についても言及いただければと思います。
□ 出口学長:
僕は一種の「歴史オタク」です。人間の歴史を見ていると、99%以上の人は一生やりたいことが見つからないまま死んでいるように思います。20代、30代で自分のやりたいことがわかっている人は圧倒的な少数派です。
例えば、みなさんは好きな人をどうやって選んでいますか。世界には80億人の人間が暮らしています。その中から、理想の相手を一人ひとり丁寧に選んでいる人はどこにもいません。たまたま相性が良い人と出会い、たまたま結ばれたに過ぎません。人生にとって何よりも大事なパートナー選びさえ、偶然に左右されているのです。
進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、「賢い者や強い者が生き残るのではなく、変化に適応できた者だけが生き残る」と述べています。これは、「将来何が起こるかは誰にもわからない」ことを前提とした理論です。ダーウィニストの指摘のとおり、人間が動物である以上、生き残るために必要なのは「強さ」や「賢さ」や「大きさ」ではなく、「運」と「適応」がすべてなのです。適切なときに、適切な場所にいるという「運」を生かしながら、その運に対応できた者だけが生き残っていけるのです。
人生は「運と適応」ですから、好きなものが見つかるまで、やりたいことが見つかるまで、川の流れに身を任せていけばいいのです。そして偶然、どこかに流れ着いたらそこで「適応」できるように頑張ってください。頑張るために必要となるのが「知識×考える力」です。
APUは106か国・地域から国際学生が集まっています。ダイバーシティ、すなわち多様性は、国籍・文化・宗教・年齢といったあらゆる属性の人間を混ぜることで生まれます。同質集団だけを集めた不自然な「純粋培養」は生物として弱くなりがちで、これは、2019年のラグビーワールドカップの時に日本のチームが証明しています。日本代表が日本人だけで構成されていたら、はたしてベスト8まで進めたでしょうか。APUが国内学生と国際学生の比率を50:50としている意味はこういうところにあります。
大人向けの大学教育についても同じで、先ほどカイロにあるアズハル大学の例を示したように、これからの時代は社会と大学を行ったり来たりする循環社会を作っていくことが、日本の競争力の源泉になると話しました。「純粋培養」ではない、あらゆる属性の人間が混ざっている環境に身を置き、豊かで多様な人・本・旅に触れること、これこそが適応していくための力を養う術と考えています。
■ 先生は数多くの著書で、「歴史」や「古典の読み方」、文系の学問の必要性を説かれております。他方、目下、文系学部や文学部系の女子大の人気の低落という実態があります。実際に、文学部系の女子大の閉鎖等が相次いでおります。この現状についてご意見やお考えをお聞かせください。
□ 出口学長:
僕が座右の書としている『貞観政要』には、リーダーに不可欠な「三鏡」というお話があります。そこでは、自分を見る鏡、歴史の鏡、他者の鏡の3つの必要性が述べられていて、将来何が起きても対処ができるよう歴史から学ぶことの重要性が語られています。
また、世界に文字が生まれてから6,000年が経ちました。この間、社会の変化に伴い、様々な教えが語られては忘れられて、そんな消滅の危機を生き延びて伝えられてきたものが古典です。つまりは、先の見通せない、予測不可能な社会情勢の中で、今ある最良の学びの糧が「歴史」と「古典」であり、そこから学んで得られるものが教養だと僕は考えています。
僕は常日頃、教養は「おいしい人生」を楽しむためにある、と言っています。僕は講演会でご飯のアナロジーで「おいしいご飯とまずいご飯、どちらを食べたいですか」と質問すると、みなさん「おいしいご飯」と答えます。次に、「おいしいご飯を因数分解するとどうなりますか」と質問すると、「いろいろな材料を集めること」と「上手に料理すること」という答えが返ってきます。正しい解答だと思います。
おいしい人生における食材とは「知識」であり、上手に料理する力は「考える力」です。まず、材料である知識が無かったら何もできません。ただし、材料を集めてもそれを人生において具体的に活用する考える力がなかったら、おいしい人生を楽しむことはできません。
では考える力を養うには、どうしたらいいのでしょうか。またご飯のアナロジーに戻って考えてみると、人が料理の能力をどうやって身につけるかといえば、最初はレシピからです。料理で考えると最初はレシピ通りに作るところから始まって、試行錯誤を繰り返しながら自分のものにしていきますよね。考える力も料理と同じで、最初は考える力の高い人の真似から入り、試行錯誤を繰り返しながら自分のものにしていくわけです。
具体的には考える力の高い人が書いた本を読むことです。それは歴史的に長く読み継がれてきた古典に他なりません、たとえば、アリストテレスやデカルト、アダム・スミス――。最初はそうした極めて優秀な人たちの本を丁寧に読み込んで、その人の思考パターンや発想の型を真似ていくしかないと思います。こういう視点で学びを考えると文学部は学びの宝庫といえるのではないでしょうか。
■ 2030ビジョン「APUで学んだ人たちが世界を変える」について詳しく教えてください。
□ 出口学長:
APUで、世界を変える人材とは、
①他者と協働し、対話を軸に対立を乗り越え、社会に影響を与えることができる
②異なる文化との衝突や遭遇したことのない困難への耐性がある
③多様な視点やアイデアから新しい価値を創造することができる
④自分自身のゴールを描き、生涯学び成長し続けることができる
と考えています。
「世界を変える」と言うと少し大げさに聞こえるかもしれませんが、この世界をよりよくしていこうとする活動は世界中の誰しもが取りうるものであり、「考える葦」としてこの世界に生まれ出でた人間にとって一生を費やす価値のあることです。現在の中等教育の学習指導要領では、主体的学びと協働的学びという2種類の学び方が注目されています。APUが目指す「世界を変える」ための学びとは、このような学び方の先にあるもので、高校までの学習を基盤として大小さまざまなイノベーションにつなげるための過程と位置付けています。
先ほど、イノベーションについての話で少し触れましたが、イノベーションを育む土壌は多様性にあります。しかし、単に多様な集団の中にイノベーションが生まれるかというとそうではありません。単に違いがあるだけではなく、その違いに気づき、受容し、尊重し、「解を出す」ことが必要です。言い換えると、多様な人が共生し、さらには、主体的に協働する環境こそが、豊かな土壌に多数のイノベーションの種が撒かれた状態と言えるでしょう。
APUは日本で最も多様性豊かな大学で、学生の半数は106か国・地域から集まる外国籍の国際学生です。教室や授業、キャンパスには学生同士のコラボレーションを誘発する仕掛けを多数盛り込み、加えて、学生はAPハウスでの寮生活を通じて、1日24時間すべてを多文化共生の場での主体的協働に費やすことになります。
何事も変わらない世界はありません。しかし、変化の方向は人間の努力により、あるいは人間同士の協力により変えられます。APUの多文化共生の場で主体的、そして協働的に学んだ人たちは、何より未来に向けて、自分たちが変えていけるという強い意志を持つことができます。そんな人たちで社会が満たされたら、世界はもっと豊かに、面白く、幸せに、変わっていくと思いませんか。APUを通じて僕たちが目指す未来は、そんな世界です。
■ コロナ禍を経た今、オンライン教育と対面教育の融合が進んでおります。また、人工知能(AI)の進展が目覚ましく、ChatGPTが話題です。IT・AIと教育の関係について、具体的な構想やお考えがあれば教えてください。
□ 出口学長:
APUでは、コロナ禍による初めての緊急事態宣言が発出されて以降、早期にオンラインによる教育環境を整備しました。このことは、単に授業がオンライン化されることのみならず、多文化が共生するキャンパス環境を特徴とするAPUの教育がオンラインでも実現できるのかという、非常に大きな挑戦でもありました。
この点に関しては、教員の多大な努力と創意工夫に支えられて、オンラインならではのグループワークなどの授業実践が生まれ、さらにはオンキャンパスとオンラインのハイブリッド教育へと展開しています。2023年度に新たに竣工したグリーンコモンズという教育施設の中には、これらの教員の先進的な教育実践のための設備として、大教室の中で最大12のグループがリアルとバーチャルで繋がることができるようになっており、ホワイトボードを使ったワークシェアからPCのデータ共有までハイブリッドで行える実験的教室を整備しました。
XR(クロスリアリティ)技術の進展により社会のあらゆる機能においてインターネットとの境がシームレスになりつつある中で、僕たちが提供する教育も積極的に従来の型を破っていくことが必要です。話題の生成型AIについても、より有効にそれを活用し、効率や精度の向上を追求していくことが求められます。
いずれにしても、忘れてはならないことは、それが学び手である学生の成長や発達にとってどのような影響があるかです。僕たち人間は技術に使われるのではなく、目的達成のために技術を使う。つまり、技術は目的を与えてくれず、目的を作るのはいつの時代でも人間です。
たとえば、APUの学生には、AIなどの技術の活用の前提として、APUへ入学した目的、将来の夢や目標、そして自分自身がどのような人材に成長して APU を卒業したいのかといったことについてあらためて確認してほしいと訴えています。どのような社会変化にあたっても、自らの目的に立ち返って、次の一歩を考えられる。僕たちがこれからの時代にこそ輩出したいのは、そんな行動ができる学生です。
■ 2023年4月に開設した、サステイナビリティ観光学部について教えてください。
□ 出口学長:
コロナ禍においてグローバリゼーションが一時的に中断しましたが、この流れは止まりません。人も経済も国境を越えて動く規模は今後ますます大きくなっていくと考えています。そんな人の動きを生み出す重要な機会として「観光」が存在します。
また一方で、このようなグローバル化を背景として、SDGsに代表されるように、持続可能性を目標に据えて世界が抱える課題が浮き彫りになり、その共通認識の醸成が進んでいます。資源、環境、気候、社会、文化、経済などあらゆる面でサステイナビリティが世界共通の価値として認識されつつあるということです。
このような国際社会における二つの大きな動きの解は、サステイナビリティおよび観光の主要アクターの1つとなる地域にあると考えています。2023年度に新設したサステイナビリティ観光学部は、そのような現代的な社会課題に光をともす学問分野として、別府という観光都市から世界の課題にアプローチします。
学び方については、理論と実践の両輪からアプローチしようと考えています。APUの特長を生かした多文化が共生するキャンパスでの学習・生活を通じた成長と合わせて、オフキャンパスにおける実践的活動を積極的にカリキュラムに取り込んでいます。別府を中心として九州には、サステイナビリティと観光に関する多くの実践を通じた学びの場があります。
たとえば、大分銀行と共催による「おおいた遺産を活用した地域づくり」という講座があります。この講座は「おおいた遺産」をどう地域観光に活用するかをテーマに、講義とフィールドワークをおこない、持続的な地域のかたちを考えています。学生は教室の講義で学んだ地域を、実際に訪れて体験することで学びを深め、最終回には公開発表を行いました。
新学部の学生たちが、地域を起点としたこのような学びを通じて、社会全体のサステイナビリティという大きな課題に挑戦していく「世界を変える」人材に成長していくことを期待しています。
■ 進路を考えている学生や親、高校の先生に向けていうなら、新学部の魅力はどこにあるでしょうか?
□ 出口学長:
サステイナビリティの課題は、世界のあらゆる地域で、あらゆる側面から対応が求められる新しい課題です。あらゆる側面というのは、企業社員でも自営業でも、どんな仕事に従事する人にも必要な要素であるということを意味しています。
たとえば、自分が担当している事業や顧客や制度や組織が、どうやればサステイナブルに発展の道をたどることができるか。仕事に従事する人であれば、多くの方が思い至るテーマではないでしょうか。近年の「働き方改革」の流れは、そのような働き方の持続可能性に焦点をあてた取組みです。
SDGsで話題となっている地球環境や社会や文化などの大きなテーマは、概して自分自身、一個人としては遠いテーマと捉えられるかもしれません。しかし、そこで検討される持続可能性は、自身の身近な仕事や生活にも応用できる部分が多々あります。地域での実践を組み合わせた学びを通じて得られるそのような知識・技能に、サステイナビリティ観光学部の大きな特徴があると言えるでしょう。
また、同質性の高い環境は、一見心地よく感じられる一方で、持続可能性が低く壊れやすいと言われます。APUは世界に類を見ないダイバーシティ豊かな環境をキャンパス内に実現しています。こんなるつぼのような環境に飛び込み、自ら試行錯誤しながら学び、サバイブしていく。それこそがサステイナビリティとは何か、何が必要か、そのために自分は何をすべきか、について身をもって学ぶことにつながると確信しています。
■ 最後に、大学に関して、また先生ご自身に関して、今後に向けて考えているビジョンや計画、予定等がありましたら教えてください。
□ 出口学長:
APUは2000年に、社会に大きなインパクトを与える形で開学しました。そして、2023年度、「第2の開学」と位置付けて、開学以来、初めて世界でも珍しいサステイナビリティと観光を学ぶ学部設置をおこないました。人生について、僕がいつも話していることは、40、50、60歳などといった切りのいい数字に惑わされ、自分にあらかじめ制限を設ける必要はまったくない、ということです。
実際、世界を見渡せば、日本を除き定年制度という制度はどこにも存在しないわけです。還暦で起業、古希で学長就任という僕の挑戦は、僕が「面白そうや」と思う流れに身を任せて、そこで精一杯適応しようとしてきた結果です。大学も同じです。今年度が「第2の開学」で、さらに何年後かに第3、第4の開学があるかもしれない。APUはそうやって何度でも、挑戦と失敗を繰り返し生まれ変わりながら進化していく。
そもそも働くということは、昔何をやっていたのか、何ができたのかは関係なく、現在の能力と意欲、体力に応じて、それにふさわしい仕事をするというのが世界の常識です。僕は、脳卒中で倒れてから1年でAPU学長職に復帰しました。それは当時の僕自身に問いかけ、能力・意欲・体力を踏まえて、人生を楽しむ方法として選択したものです。
これからの人生選択も同じです。「人・本・旅」を続けながら、毎日少しずつ世界がクリアになっていく。そして面白そうな場所で精一杯適応する。それが僕のおいしい人生の送り方です。
リンク:
立命館アジア太平洋大学 - 立命館アジア太平洋大学 (apu.ac.jp)
サステイナビリティ観光学部 - 立命館アジア太平洋大学 (apu.ac.jp)
最近の著書:
・出口治明『逆境を生き抜くための教養』幻冬舎新書
・出口治明『なぜ学ぶのか』小学館Youth Books
・出口治明『復活への底力–––運命を受け入れ、前向きに生きる』講談社現代新書
出口治明氏 プロフィール:
1948年、三重県に生まれる。京都大学法学部卒業。
日本生命保険相互会社に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、
2006年、同社を退職、生命保険準備会社であるライフネット企画株式会社を設立し、
代表取締役社長に就任。
2008年、ライフネット生命保険株式会社を開業。
2018年、立命館アジア太平洋大学の第四代学長に推挙され、同大学初の民間出身の学長に就任。
2021年、脳出血で倒れもリハビリを経て復帰し、現在2期目。
著書は、歴史書・教養書関係を中心に多数。現在も意欲的に執筆を続けている。
(インタビューと構成・記事:原田広幸 KEIアドバンス コンサルタント)